では、実際にテイスティングしながら、甲州ワインの魅力についてもう少しお話していきましょう。今回は、3本の甲州ワインを用意しました。先ほどお話したシュール・リー製法で造られた『シャトー・メルシャン勝沼甲州』、和柑橘の香りがすばらしい『シャトー・メルシャン甲州きいろ香』、そして甲州ブドウの個性を最大限に引き出した『シャトー・メルシャン甲州グリ・ド・グリ』です。
まずは、「勝沼甲州」から。いつものようにテイスティングしてみましょう。色はどうですか?
かなり薄いレモンイエロー。ちょっとグリーンがかっていて、輝きがあります。
そうですね。粘性はどうですか?
少しありますが、さらりとした感じですね。
そうですね。ワインの涙がわずかに見えていますね。香りはどうでしょう?
すっきりとした爽やかさとやわらかさがあります。あまり酸味は感じませんね。あ、洋ナシのような果実の香りがフワーッとしてきました。グレープフルーツやレモンの柑橘系、文旦(ぶんたん)のような少し甘い和柑橘の香りもあります。
よくわかりましたね。この後飲んでいただく「甲州きいろ香」もそうですが、ボルドー大学との研究によって、香りがよく出る収穫時期を選ぶことで、グレープフルーツや和柑橘系の香りが際立つことがわかったんです。
「熟した甘いワイン」ではなく、「フレッシュな香りが立つワイン」を目指したんですね。本当にすっきりとしたいい香りです。
では味わってみましょう。果実味が豊富で、そのあとにおだやかな酸味がついてくる感じがしませんか?
そうですね、酸味はあるけど尖っていない。やわらかでまろやかで、バランスのとれた味ですね。そして、舌の上をいい香りがスーッと通り抜けていく感じ。グレープフルーツや文旦の果汁を滴から飲むような、しぶきを感じさせるような爽やかさがあります。
いい表現ですね。これは魚の塩焼きや、鶏の岩塩焼き、焼きハマグリなど、塩味を効かせた料理と相性がいいですよ。
では、次に「甲州きいろ香」を試してみたいと思いますが、テイスティングの前に、ちょっとだけ覚えて欲しい物語があります。
この名前、何だか変わっていると思いませんか? 「きいろ」というのは、このワインの開発に力を注いでいただいた、ボルドー大学の富永先生が飼っていた鳥の名前なんです。かつてワインの香りの研究が行き詰まり、心が折れそうになったとき、偶然に瀕死の黄色い小鳥を大学構内で助け、家に連れ帰って「きいろ」と名付けたのですが、介抱するうちに、先生自身が「きいろ」に癒され、励まされて、行き詰まっていた研究がうまく回りはじめたんです。そして「きいろ」が亡くなった後、富永先生はその研究を「きいろの香り」というエッセイにまとめました。その後、2003年に、先生と古くから交流のあったメルシャンの味村チーフワインメーカーがボルドー大学と提携し、甲州ブドウの中に柑橘系の香りの素になる成分があることを発見して誕生したのが「シャトー・メルシャン甲州きいろ香」なんです。
ちなみに、後でわかったことですが、「甲州きいろ香」のラベルには小さく青い鳥が描かれていますが、「きいろ」は、実はメーテルリンクの「青い鳥」に出てくる幸せを運ぶ青い鳥(メザンジュブルー)だったんです。残念ながら一昨年前に永眠された富永先生と「きいろ」が、天国からこのワインのことを見守ってくれている。このラベルにはそんな思いが込められています。
1枚のラベルにも、そんな愛情のこもったストーリーがあるんですね。そういうお話を聞くと、ワインの奥深い香りと味わいが、一層引き立つような気がします。
では、テイスティングしてみましょう。
先ほどの「勝沼甲州」より、少し黄色みが強くなりました。粘性は同じくさらりとしていて、きらきらと輝いています。香りは・・・、すごいグレープフルーツの香りが立ち昇ってきます。それと、情緒のあるネーミングを聞いたせいかもしれませんが、橙(だいだい)の香りもします。
橙、正解です! これがわかるのはすごいなあ。もえちゃんの香りの表現は、わかりやすくてとてもよいと思います。次に、味はどうですか?
先ほどより酸味があります。でも、酸味がある分、味も少し強くてバランスがいいですね。果実がグッと前に出てくる感じです。色は透明感があるのに、味わいはすごく深い。舌の上に酸味がしっかり残ります。そして、香りが鼻腔をくすぐる感じがあるので、同じように香りの強いお料理、たとえば個性的なエスニック料理も受け止めてくれそうな気がします。
そうですね。オオバやパクチー、ミントといった香草、エビなどを入れた生春巻きなんてよさそうですね。それから、白身の魚介類にカボスやスダチ、レモンをさっと搾って一緒に食べると、さらにマリアージュが楽しめますよ。
さあ、では最後の1本、「シャトー・メルシャン甲州グリ・ド・グリ」をテイスティングしてみましょう。
実は、さっきから気になっていました。ワインの色が琥珀・・・とまではいかないけれど、まるでデザートワインのような黄金色をしていて、さっきまでの甲州とまるで違いますね。同じ甲州ブドウで、どうしてここまで色が変わるんでしょう?
これは、シャトー・メルシャンの齋藤工場長が中心になって、これまで誰も飲んだことのない甲州ワインを造りたい、甲州ブドウの持つ潜在能力を最大限に引き出して、世界に問うような挑戦的な味わいを表現したい、という強い思いから開発されたワインなんですよ。
私も大好きな“チャレンジ”ですね!(笑)。
そうです。最大の特徴は、普通の白ワインは果汁だけ発酵させるところを、このワインはブドウの皮も一緒に発酵させていること。果皮に微量に含まれる赤い色素によって、独特の色合いが生み出されたんです。その後も研究開発を進めて特徴的な色合いを引き出していますが、その持ち味は色だけではないんです。果皮に含まれる渋味や苦味、さらには果皮と果肉の間にあるうまみなどが複雑に溶け合い、厚みがあって実にふくよかな香りと味わいのワインが完成したんです。
本当! 適度に粘性があって、色からも想像できるように甘い香りなのに、決して単調ではない、複雑な香りを感じます。パイナップル、黄桃、アプリコット、サクランボ・・・わあ、この香り、大好きです!
味はどうですか?
あれ? 甘くない。不思議~。何というか、舌先で味わうと、酸味もあるんですが、甘くないキャラメルというか、多少こげっぽさというか、そんな味も感じます。でも、すごくおいしい。そして、何か食べたくなる、何かと合わせたくなる味ですね。
そうですね。ブイヤベースとか、魚のだしが効いているような、うまみのある料理に合うと思います。あとは、果皮から出てくる成分の影響で、味わいが深くなっていますから、焼き豚のようなしっかりとした味付けの料理にも合う。この意外性が、実はプロのソムリエさんにも人気なんです。和食だけでなくフランス料理のお店にもオンリストされていますが、「甲州からすごいワインが出てきた」と、驚きや喜びの声が上がっているんですよ。
それ、わかります。個性的で、チャレンジ精神があって、おいしくて。ある意味、白ワインの領域を超えちゃってます(笑)。