新年あけましておめでとうございます。押切もえです。
新しい年の幕開け、みなさんはどんなお正月を迎えられましたか?
第4回目は、お正月の「おせち」はもちろんのこと、日本人の味覚の原点である「和食」に合う、日本固有のブドウ品種“甲州”から造られるワインについて教えていただきます。
甲州ブドウの歴史のはじまりは約1300年前、平安時代ともいわれているそうですが、そこからどのようにワイン造りがはじまり、世界からも関心を集める「日本の甲州ワイン」を実現するまでに至ったのでしょうか?
そして、甲州ワインが和食にぴったり合う秘密とは?
メルシャン・ワインアンバサダーとしてもぜひ知っておきたい「甲州ワイン」の魅力を、舟木先生にたっぷりレクチャーしていただきます。2010年もやっぱりワインで!本年もどうぞよろしくお願いいたします。

メルシャン・ワインアンバサダーに就任して4カ月。ワインのことを知るにつれ、ますますワインが好きに、そして造り手のみなさんの愛情を感じながら飲むようになってきた私ですが、今日は、日本人の食卓に欠かすことができない“和食”にぴったりの日本のワインについて教えていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
わかりました。世界中の有名な産地だけでなく、日本にも、この土地の気候・風土に根ざし、日本人の味覚にマッチするすばらしいワインがあることをお伝えしたいと思います。日本固有のワイン用ブドウ品種といえば山梨県の「甲州」ですが、もえちゃんはそのルーツというのをご存知でしょうか?
いいえ、ぜひ教えてください。
では、簡単にお話しましょう。甲州ブドウは、もともとヨーロッパからシルクロードを経由し、仏教の伝来とともに中国から日本に渡ってきたと伝えられていますが、甲州ブドウの発見には2つの伝説があるんです。一つは、高僧の行基(ぎょうき)が山梨県勝沼を訪れ、祈願を行った際、ブドウを持った薬師如来が夢に現れたのを機に大善寺を創建し、ブドウづくりを村人に伝えたのがはじまりという説(西暦718年)。もう一つは、勝沼の住人 雨宮勘解由(あめみやかげゆ)が、大善寺の対岸にある城の平で発見したのがはじまりという説(西暦1186年)です。
どちらにしても、そんなに長い歴史があったんですね。
ただし、当時はワイン用ではなく、食用として用いられていました。なぜかというと、日本は水に恵まれた土地なので、乾いた土地のヨーロッパのように、水代わりの飲み物としてのワインは発達しなかったんですね。ですから長い間、甲州ブドウは水菓子(果物)の扱いだったんです。
日本のワイン造りは、それからはるか時が経った明治10年。山梨県勝沼から2人の若者(土屋龍憲・高野正誠)が本場フランスにワイン造りを学ぶために旅立ち、約2年におよぶ実習の末に技術を持ち帰ったのがはじまりです。そこから本格的なワイン造りを日本の民間で最初にはじめた「大日本山梨葡萄酒会社」が、メルシャンのルーツでもあります。
つまり、日本のワインの歴史=メルシャンの歴史ということなんですね。すご~い!
ありがとうございます(笑)。しかし、一日も早く世界品質に追いつくために、今日まで地道な努力と苦労を重ねてきたというのが実情です。
たとえば、1980年代からはじめて今でもやっているのが、技術者の海外研修制度です。勝沼ワイナリーなどから、技術者をアメリカのカリフォルニアやフランス・ボルドーなどの大学やワイナリーに派遣し、最先端のブドウ栽培・ワイン醸造技術や伝統的なヨーロッパの技術を学んでもらい、その技術を日本のワイン造りに活かしています。さらに、海外のそうした素晴らしい製法技術や研究結果などの情報を、山梨県の他ワイナリーにも公開しています。
メルシャンは、何でそんなに親切なんですか?
手前味噌になるかもしれませんが、それが日本ワインのリーディングカンパニーとしての役目だと思っているんですね。メルシャンだけが甲州でいいワインを造っても、世界的に認められるわけではない。同じ土地でワインを造るワイナリー同士、お互いに切磋琢磨していいワインを造り、産地全体のレベルを上げることで、その価値を世界に広めていきたいと考えているんです。
さすがはメルシャン、考えることが大人です(笑)。特に産地全体に変化をもたらした技術や製法ってあるんですか?
そうですね、フランス・ロワール地方のミュスカデというワインに用いられる独特の製法“シュール・リー”は、甲州ワインに多大な影響を与えたと思います。
“シュール・リー”とは、フランス語で「澱(オリ)の上」という意味ですが、白ワインの場合、発酵が終わった後にできる酵母菌などからなる沈殿物、つまり澱を取り除くのが通常なんです。ところが“シュール・リー”では、すぐに澱を取り除かず、澱と一緒にタンク内で冬の間何カ月間も寝かせるんですね。そうすると、澱に含まれるアミノ酸やペプチドといったうまみ成分が溶け出して、ワインの味に何とも言えない深みや幅を与えてくれるんです。
また、澱と接触している期間が長いため、この製法で造られるワインにはほのかに炭酸が混じっていて、非常に爽やかでフレッシュな味わいをもたらしてくれるんですよ。
前回教えていただいた、スパークリングワインの二次発酵の過程を思い出しますね。爽やかで深みのある味わいのワイン、聞いているだけでおいしそうです!
またワインの香りの世界的権威であるボルドー大学との共同研究によって、約1300年もの間隠されていた甲州ブドウ本来の豊かな香りを引き出すことに成功してからは、さらにすごいワインがどんどん出てくるようになったんですよ。
それまで「比較的香りのおとなしい、凡庸な味」と評されていた甲州ワインでしたが、そうした長年の努力が認められ、日本を代表するワインとして世界の有名レストランにオンリストされるまでになってきたことは、日本のワインに携わってきた者としても本当に名誉なことだと思っています。
それもメルシャンが一生懸命ワインの産地形成をしてきた成果ですね。先生の気持ちが伝わってきて、押切、感動しました!